連載 使いみちのない時間・10
拒絶
丈久 了子
pp.896-900
発行日 2000年10月10日
Published Date 2000/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662902285
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「保健婦さんは,うちの子をそんなに障害児扱いしたいんですか!うちの子は何ともありません。だから,もう来ないでください」
そう言うと,玄関のドアが唐突に,そして乱暴に閉ざされた。その金属製の音は,がらんとしたアパートの廊下に鳴り響いた。富見田はその反響音に包まれながら,黙って立ちすくんでいた。保健婦になって初めて出会う,絶対的で頑な拒絶。閉ざされたドアの向こうには,生後5か月の乳児がいる。1か月ほど前の健診のとき,まだ首も座らず,左と右の手足の動きに一目で分かる左右差のある男児だった。活発に動く右手に比べ,左手は肩を動かすのも,もどかしげに見えた。寝返りのための体幹のねじりもなく,反り返りが強い。問診にあたった富見田は,すぐさま脳性麻痺も含めた運動障害の存在を危惧した。
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