「温もり」だけでも—子育て支援の貧困

　東京の下町，向島にある福岡助産院の玄関口。靴，サンダル，スリッパなど履物が乱雑に並び，玄関から外にまであふれている。記録映画「ふれあうまち」にでてくるわずか4,5秒のシーンである。映画をつくった監督の熊谷博子さんは後日，この場面にカメラを向けさせながら，涙があふれそうだったと語った。

　熊谷さんは内戦下のアフガニスタンでイスラム女性の暮らしを描いた映画「よみがえれカレーズ」（1989年，共同監督〉で知られる映像ジャーナリストだ。結婚して40歳近くで初めて出産した。引っ越した東京のマンション生活では近所に知り合いもいない。日々壁と向き舎いながらの孤独な子育てに，さすがの行動派も「大都会の子育てはこんなものか」と苦しんだ。長女を預ける保育園をやっと見つけ，カメラを回した復帰第一作が「ふれあうまち」だった。