特集 公衆衛生はどう変わるか—保健所法改定を機に
[世界の公衆衛生の流れ]
公衆衛生・予防のシステム不全とアイデンティティ危機の分析—健康転換概念を用いて
長谷川 敏彦
1
1厚生省九州地方医務局
pp.958-964
発行日 1993年10月25日
Published Date 1993/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900814
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はじめに
経済だけではない。健康においても日本は長寿,低乳児死亡と世界一の実績を示すに至っている。その実績故に30年後,世界中でそして人類史上,最も多くの高齢者を抱える国となる。加えて世界では東西冷戦構造が崩壊し,新たな体制が模索されており,日本社会も,国際化,情報化,価値観の多様化と,今大きな変動期にある。保健医療界も社会の一部であり変動を免れ得ない。疾病構造の変化によって需要が変化してゆくのは当然だが,技術の革新によって供給も変わっていかざるを得ない(図1)。その中でも保健分野,即ち公衆衛生予防のあり方は,厳しく問い直されている。
近年,途上国を対象とする公衆衛生学者や人口学者の間で提唱され始めた健康転換(Health Transition)という概念はこれらの問題を分析するには極めて有用である。健康転換は,人口転換論を下敷としており,「人口・疾病構造の変化」と「保健医療体制の変化」そして「社会・経済構造の変化」とが相互に影響しながら段階的で構造的に歴史的転換をとげることを示したシステム概念である。日本の健康転換を分析すると,1900年頃から1960年頃にかけて,社会の近代化,産業化に伴い,疾病構造が感染症から成人病に転換した第1相,1980年頃から,社会の成熟化に伴い,疾病構造が成人病から老人病に転換しつつある第2相が歴史的に認められる(図2)1)。
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