連載 保健婦日記・3
風化させてはいけない私自身の出来事(一)
伊藤 芳子
1
1宮城県大崎保健所
pp.498-499
発行日 1993年6月10日
Published Date 1993/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900711
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長い一日
ここは対がん協会の待合室である。まぎれもない私が診察の順番を待っている。三日前に左乳房にしこりを発見したのです。教科書のように外上四分円にコロコロと固い得体のしれないもので、鏡の前でバンザイをしても、体をねじってもあるのです。夢ならいいとホッペをつねってもそれは事実なのです。
まんじりともせず過ごした翌日、受診対がん協会を紹介されたのです。診察室には、私と同年代の人が二〇人ぐらい待っていました。どの顔も明るくはありません、かといって私ほど深刻そうでもなく、本を読んでいる人もいます。新患ではなく、経過観察の人なのだろうか、などと思いながら診察時間を待ちました。運命を知るというより運命を変えられるだろうかと思いました。たぶん乳癌、そうでないって言われたら、かえって気が抜けてしまうのかもしれない、でも気が抜けてしまっても、癌じゃないほうがいい。
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