発言席
あるエピソード—保健婦さんへの期待
武村 和夫
1,2
1社会福祉法人穏寿会
2武村内科医院
pp.89
発行日 1992年2月10日
Published Date 1992/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900421
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10年程前のことであるが,東京都中野区で痴呆性老人に対する訪問看護を開始した時,少しばかりお手伝いをしたことがある。その時耳にした保健婦Kさんについてのエピソードは,今も忘れられない。
30代のKさんの担当したケースの内に,60代後半のAさん夫婦がいた。Aさん夫婦は夫婦ともに,軽度のアルツハイマー病の方であり,マンションの1階に2人で暮らしていた。日常生活には介助が必要であり,同じ建物の2階に住む息子夫婦が,食事,買物,掃除などの世話をしていた。Aさん夫婦は,入浴を厭がって,2人とも半年以上も前から全く入浴していなかった。体じゅう垢だらけで,更衣もほとんどしないため悪臭がただよっていた。息子夫婦が入浴をいくらすすめても,「昨日入浴したばかりだから……」と,頑として入浴しなかった。更衣についても同様であった。
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