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要約
以上,危機回復過程に影響を及ぼすバランス保持要因に視点をおき,事例の状況分析,問題分析,及び援助のあり方の検討を試みた。その結果危機理論を効果的に実践に生かしていく方法としていくつかの知見が得られた。
1)三要因に視点をおいた情報収集のあり方
(1)危機回復に影響するバランス保持の三要因が満たされているか否かを判断するために,事前に具体的情報項目(例えば,どういう視点で聞くか一病気受容状況・医療に対しもっている意見など)をいくつかもっておいた方が情報収集の視点が定め易い。ただし,事例との相互作用のなかで,流れに沿って弾力的に枠組を活用しなければ,枠組に縛られて現実が見えなくなる。つまり,問題を理論枠に当てはめるのでなく,必要に応じて問題に理論を弾力的に活用することが大切である。
(2)1回の訪問で,特に初回訪問のように対象と援助者の人間関係が確立していない時にすべての情報を得ようとすることは困難である。したがって,特にバランス保持の三要因のうち特に弱いと思う要因を判断し,それを中心に情報を深めていくことが大切である。
(3)バランス保持の三要因のうち,"その事件に対して現実的知覚をしているか否か"については,特に事例自身の内的世界を表現することであり,言語的表現だけにとらわれず,非言語的表現(たとえば,涙を流す,声を出して笑う,硬い表情など)にも観察の目を向ける必要がある。
(4)"対処方法"については,"今起こっている事件に対してどのような方法で解決しようとしているか"に焦点を当て,情報収集する。特に,短時間の面接場面で,又過去に同じ事件を体験したことのない人に,過去の対処方法を尋ねることは困難である。又,その人が人生の重大時(進学,就職・結婚)に,どのような取組みをしてきたか把握することによって,問題に取組む姿勢として参考になる。
2)援助の視点
(1)バランス保持の三要因を確認
援助の視点を定める時,三要因の中の何がより強化されなければ,その人の不均衡状態(不安・抑うつなど)が解消されないのかを判断し,優先して解決すべきものを援助の目標にあげる。
また,危機理論の基本的な考えになっているのは,不均衡状態が単に均衡状態になれぽよいのではなく,危機回復過程を通して事例が成長し,次の危機にも自分なりの対応ができるということである。したがって,事例が危機を契機に成長できるように,三要因のうち,弱い要因に本人自身が気づいたり,又それを強めることができるよう側面的な援助が必要である。
(2)生活条件の変化の中で,危機は新たな意味をもつ。
ある事件による危機回復後,生活条件,生活場面のちがいによって,ある事件に関する危機は新たな意味をもって生じる可能性がある。
例えぽ,今回対象としたC事例のように,病院から地域社会へと生活場面が変化したために,入院中に,出生直後の危機回復した後地域社会での生活に適応するために,多くのストレスが生じ,新たな危機が予測される。その時に,過去(例えば入院中)の危機回復過程を知っておくことが,新たな危機への対応を予測することができる。
(3)チームでのかかわりが援助を効果的にする。
地域にいる人々へのアプローチは,1人の専門家だけでできるものではない。C事例が入院中,多くの支持・援助があったように立場のちがいによって役割を変えて援助すること,又身近ですぐに相談したり支持の得られる人材の存在は,危機の深刻化を防ぐため大切である。
(4)潜在化している本質的問題をさぐる。
事例の中には,B事例のように,本質的な問題がわからないまま,表面化している具体的問題ばかりにとらわれてしまいがちである。当面,表われている問題の解決を急ぐとともに,なぜそのような問題が起こっているのか,潜在化している問題に目を向けることが援助の視点に影響をする。
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