ニュース診断
想像力の問題
久米 茂
1
1深夜通信
pp.159
発行日 1974年2月10日
Published Date 1974/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205442
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今年度の国の予算は追はぎ型だ,と叫んだ友人がいる。その友人は身体障害者である。ただでさえ常人の適応力の何分の一というハンデがあるのに,さいきんの高度インフレと"物不足"にさらされてはたまったものではなかろう――というのが私の素朴な感想である。ところが彼は反パツの表情でこう言った。「このインフレで閉口するのは情報がまるで入らないことだ。きみなんかも庶民の1人だからそうだろうが,ひどいのはぼくらだよ。目と耳と足が丈夫なら耳コミや口コミなどいくらかの情報も入ろうが,ぼくらにはそれがダメなんだからね」。
私はそうか,とわが身の不明を恥じた。フロー(所得)もストック(資産)もない私だが,いくばくかの情報は入る。――その情報におどらされて買急いだり,高価なものをつかまされたりのデメリットはあるが――。ところが身障者はシャットアウトだ。ささやかなものがたまさか入っても体がいうことをきかないから,かえって始末の悪いことになる。たとえばどこそこに灯油が400円前後で売られているというニュースを数人が耳にしたとき,その中の身障者はおいてきぼりを食うにきまっている。しかも入手した者が分けてくれる,といったことはまずないから残酷なことだ。
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