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NHKのスペシャル番組“検証・航空機事故”をごらんになった方もいらっしゃると思う.航空機の運行数はどんどん増えているのにその事故率は低下していないという.つまり事故数も増加しているということである.このままゆくと大型旅客機が9日に一機墜落する時代になるというから恐ろしいことである.そしてそれらの事故の原因には高度化した操縦機器への過信と危機に遭遇したときの操縦士らの対応の未熟さが関与しているそうである.コンピューターが何か異常を示したとき,いちはやく自動操縦から手動に切り替え,自らの操縦能力を最大限に活かして危機を脱すべきところを,コンピューター入力をやりなおしているうちに山の斜面に激突したという事故も紹介されていた.大事故は小さなミスの積み重ねから起こる.重大なプロセスにはかならずダブルチェックが行われるようになっているが(またそうなっていないと運輸省の基準をクリアできないはずだが)それが機能しないと大事故になる.一つのミスが起こる確率が百分の一と仮定すると,二つのミスが重なるのは単純計算で一万分の一,トリプルチェックにすれば百万分の一まで下げられるはずである.最近の医療事故の報告をみても驚くほど単純なミスがダブルチェックされることなく見逃され患者さんの命を奪っているという印象をうける.臨床データ,モニター情報,画像情報などを有効に利用するのはよいが,最終的に治すべきものは異常データではなく患者さん自身であることを考えれば,医療者はもっと謙虚に患者さんに接し,そこから得られる情報を最重視して診療を行うべきであろう.話は変わるが,一時ペットとしてヘビやトカゲを飼うのがブームになったが,飽きてしまったり,または大きくなりすぎて手に負えず池などに捨ててしまう人がいるという.捨てられたワニガメがそこで大きくなり生態系を崩しているということが報道されていた.また用水路にピラニアが捨てられ,子供が噛まれで怪我をするという事件もあった.コンピューターの子育てシミュレーション・ゲームなどでは,飽きたらリセットしたり電源を切ってしまえばよいから,動物を飼うことの本当の意味が分からなくなるのではないだろうか.飼っているものを捨てるとき,自分の大切な一部も捨てているということに気が付かなくなる.飼育しはじめる前にこの動物をいつまでも愛せるだろうか?と自問してから飼ってもらいたいと思う.子供のトラは可愛いが成長すれば猛獣になることぐらい誰にでも想像がつくはずである.人間どうしのコミュニケーションも,いやになったらリセットすればいいと思えば本当の友達などできるはずがない.仲良しのときもあれば喧嘩をするときもあるが常に信頼しあえるのが友達であろう.そのためには相手の立場にたってものを考えてみるという想像力が必要である.
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