1さつの本
—下村 湖人 著—最も親しみやすい本"論語物語"角川文庫
三井 祐子
1
1東京都牛込保健所
pp.689
発行日 1973年9月10日
Published Date 1973/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205358
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この欄は"1さつの本"だが,この"1さつの本"という題はとても大きなものである。ちょっと考えてみただけでも,常に自分のそばにあって事あるごとに助けてくれる本,つまり座右の書的な本,最も感動を受けた本,最もおもしろかった本,最もこわさを与えた本,最もいやな本,それから自分だけが読み,どこにも同じ内容のものがない日記,本自体の内容よりも,その本と関連して深い思い出をよびさましてくれる本など,極端にいうと,無限のひろがりをもつように思われる。
そういった"1さつの本"という題から連想される"最も……"という本を考えてみて,それらの"最も"ということばのつく本が"十五少年漂流記""赤毛のアン"など,ほとんどが小さいころ読んだ本で,ここ1,2年といった最近読んだ本がほとんど登場しないことに気づき,半分感心し,半分反省した。小さいときはその本に書かれていることに敏感に反応するということもあるが,最近の読書がほとんど夢のない読み方,いい換えれば読書する本の選択自体から読んですぐ知識が身につくものとか,みんなが読んでいるから私も読まなければ,といった感じの本といったものになり,余裕のなさが歴然としている。
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