一冊の本
「遠き落日」—渡辺 淳一,角川文庫,昭和57年
相澤 豊三
1
1立川共済病院
pp.173
発行日 1987年1月10日
Published Date 1987/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402220786
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往々にして偉人の伝記は,その光の部分が強調され,陰の部分や人間的な側面が十分に現わされていないきらいがある.野口英世の伝記もその典型であり,「貧農の子として生まれ,米国に渡り数々の発見をし,世界に有数な医学者となる」という伝記を子供の頃から読み親しんできたのは筆者だけではないと思う.本書の著者渡辺淳一氏は整形外科医出身の作家だけに,そのような偶像崇拝的な伝記にあきたらず,外側から野口英世像を描き出すだけでなく,その体内深く分け入って骨を探るといったまさしく外科医のメスと作家のペンとの緊密な連係を物語っているようで,非常に興味深い.事実,野口英世についての日本の伝記は米国における生活の記述が十分でなく,また米国の伝記は日本における生活の記述が十分でない.本書はその両者に偏ることなく描かれている.
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