社会の窓
戦犯か捕虜か
野口 肇
pp.64
発行日 1966年9月10日
Published Date 1966/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203743
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アメリカの北爆でミサイルや地上砲火で撃されたパイロット捕虜の処刑について,世界中の報道がにぎわっています。
アメリカ当局は,捕虜の待遇を規定した1949年のジュネーブ条約にもとづき,その適用をうけるべきだととなえています。条約によれば,捕まる以前の行為は裁判をうけ,ごくかぎられたばあいだけ死刑にできるとあります。他方,北ベトナム政府側は1945年にとりきめたニユルンベルグ軍事裁判所条例によって,抑留飛行士らを戦争犯罪人と断定し,すでに「ベトナムにおけるアメリカ帝国主義者の戦争犯罪人調査委員会」を設けて,裁判を開始しています。アメリカ国務省の発表では,抑留が確認された飛行士34名,行方不明が233名(事実上は捕えられている)と多数にのぼっています。ついでにニユルンベルグ条例では,戦犯の訴追事項として①平和にたいする罪,②戦争犯罪,③人道にたいする罪,④個人にたいする責任,などがあります。なお北ベトナム政府は1957年にジュネーブ条約に加盟したが,そのさい同条約に「戦時犯罪ならびに人道にたいする罪で有罪となった戦犯」をジュネーブ条約の保護から除外するという保留条件をつけています。いいかえれば「上司の命令にしたがって行動したという事実は,その責任を解除するものではない」とニユルンベルグ裁判の原則がつけ加わっているのです。
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