書評
—田中 寿美子—新しい家庭の創造 ソビエトの婦人と生活
定村 敦子
pp.53
発行日 1966年2月10日
Published Date 1966/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203564
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「家庭」の再発見
最近「家庭」というものの意義が改めて論じられてきている.それは家庭の崩壊や家族の中にみられる疎外といったことがしばしば問題になっていることと無関係ではない.こうした現象は,どこからくるのか.
家庭はかつては衣食住の生産の場としてその機能を果たしてきたがそれが社会の手に移されたことによって家父長制の分解を招いた.一方,われわれの生活の条件は曲りなりにも良いとはいえない.収入は少なくしかも長時間労働である.住宅事情も悪い.さまざまな社会的条件から,ある者は家庭を社会に対する砦とし,自己逃避の場とするが,ある者にとっては,家庭はもはや積極的意義を見出すことのできないものとなってしまった.子どもにとっても住宅事情の悪さ,遊び場のないこと,監督者のいないことなどで,周囲はあまりにも危険に満ちている.このことは,共かせぎ女性を攻撃する絶好の材料として用いられる.社会は女性にも男性と等しく働くことのできるような条件を満たした上で,働きたい女性は働き,存分に能力を発揮するようにすべきであるのに,この満たさるべき社会的条件は閑却されて,つねに女性が攻撃の矢面に立たされる.共かせぎ女性にとって,特に母性たることは苦痛とさえなっている.戦後,女性は解放されたといわれるが,真の婦人解放とは,家事と育児の社会化が実現され,母性が厚く保護された時にこそ始まるのである.
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