書評
—レエモン・ラディゲ—ドルジェル伯の舞踏会
文
pp.48
発行日 1966年2月10日
Published Date 1966/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203562
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ペシミスティックな恋を描く
作者レエモン・ラディゲは1903年6月18日に生まれ,1923年12月12日に20歳で死んだ.世界文学史上の傑作「ドルジェル伯の舞踏会」は,18から20歳の間に書かれた.まことに異常な早熟の才である.しかしこの作品には,早熟さとか異常さはまったくみられない.「もっとも偉大な詩人はそれを書いた年齢を忘れさすことのできた人たちだ」とラディゲ自身もいっているように,私たちを驚かすのは,ラディゲの才能に,神童特有の早熟の異常さが皆無なことである.すべての年齢はその果実を持っている.ラディゲは,それを書いた年齢のよく熟した果実だったのである.
ラディゲが「ドルジェル伯の舞踏会」の中で書こうとしたのは,あまりに清純な心の無意識の操作というものは,不行跡な心がたくらむさまざまな工夫工面よりもっと奇異な,異常な結果を生むという恋愛心理のメカニズムである.
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