特集 現代社会と精神衛生
精神衛生からみた家族関係
小此木 啓吾
1
1慶応大学医学部神経科
pp.20-25
発行日 1964年10月10日
Published Date 1964/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203221
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まえがき
公衆衛生といい,精神衛生といい,各個人の健康を,環境との関係から理解する点に,その立場があるのだと思う.ところで《精神衛生》というと,職場や学校,地域などがその環境としてとりあげられてきたが,それにひきくらべて《家庭》のことはおろそかにされていたといえよう.《環境》というコトバを,自然および社会と考えると,なんだか家庭は社会とはいえないようにもみえる.しかし,一人ひとりの個人にとって,実庭は欠くことのできないりっぱな社会的環境である.とりわけ,保健・衛生にとって,家庭は一番重要な社会的環境ではないだろうか。今まで家庭を社会的環境としてとりあげなかったとすれば,あまりにも《家庭》というものに,個人的な色彩が強くて,むしろ一般の社会環境と同列にあつかっては悪いような遠慮があったからではないか.たとえば,一入ひとりの個人を裸にしたり,心理検査をして心の秘密に立ちいることは,比較的容易に医療の名のもとに許されているのに,他人の家や部屋にはいり込むことは,ある意味で,それ以上にむずかしいことだ.なにか各家庭に社会一般の立場から立ち入ることは,健康管理のためであれ,精神衛生のためであれ,他人の生活に干渉しすぎることではないか,といった気がねが根強く潜むように感じられる.この感情はやはりたいせつにしなければならない.家庭は排他的で閑鎖的な社会である.
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