特集 職場における人間関係
人間関係と精神衛生
村松 常雄
1
1現在,国立精神衛生研究所
pp.26-30
発行日 1969年10月1日
Published Date 1969/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914634
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「ひと」と人間関係
「ひと」のことを漢語では「人間」と書いている。偶然のことかもしれないが,その文字のとおり「ひとの存在」は,好むと好まざるとを問わず人と人との間での生活体である。そもそも人として生まれ出たこと自体が,すなわち存在の出発点からが人と人との間にあり,しかも母体内の受胎時に与えられた遺伝的な条件は,両親のそれぞれの家系を構成してきた歴史的な人間関係の結合条件によって伝えられたものである。この条件に関しては主として優生学(eugenics)の問題である。
生まれ落ちると,まずその家族を構成している両親や同胞との間で育てられている。この条件もまた,子どもの側から見れば宿命的な人間関係の内に生育するわけであるが,誕生直後の子どもにとって最初の緊密な人間関係を持つのは母親(またはその代理者)である。しかもその心理的な相互関係においては,まだ言葉の理解さえできない乳児期においてさえ,母親の感情状態が子どもに影響するといわれている。このような言語以前,また言語以外の心理的な,特に感情的な相互交流(communication)の現象をアメリカの精神医学者サリバン(H. S. Sullivan)はエムパシー(empathy)と呼んだ。
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