講座
家族制度と精神衛生
村松 常雄
1
1名古屋大学
pp.15-19
発行日 1954年8月10日
Published Date 1954/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200782
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欲求と不満
人間には誰にでも,小さい時から夫々の年令に応じて樣々な欲求があります.空腹状熊となれば食物を求める等の身体的な欲求の外に仲間を求め,人から愛せられたい欲求,尊重され度い欲求などは既に小さい時にも認められ,大きくなると名譽欲,権力欲等にも発展します.又知識欲,研究欲,等もあり,此等の欲求は,或は,生命を保つ上にも,身体発育,精神発達の爲にも,更に自我の発展の爲にも,大切な発動力の役目を爲すものであります.
処が此の樣に人間は樣々な身体的社会的欲求を持ち,しかも事情によつては烈しい力で人間を動かすものであるのに,環境は必ずしもこれに満足を与えて呉れるものではないのみならず,後に述べるように色々な点でこれを拒み,束縛し,又禁止します.求めて得られぬ時は,色々な強さの不満となります.環境と云つても,此の場合,白然的,生物学的な,例えば地理的,温度,等の面は別として,人間集団,即ち家族,学校,職場,社会に於ける心理的な面が問題となる訳で,如何なる集団でも,歴史的伝統,習慣,宗教,道徳等により,又全体の利益や安全の爲に,樣々な「べし」「べからず」の掟を持ち.そのあるものは法律とされ,これを犯せば罰せられ,そのあるものは不文律として,これに背けば,社会や集団から制裁されることも起ります.
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