あい・しんく・そう
下町の生活の中で/スッパイ夏みかん
M
,
U
pp.63,67
発行日 1964年7月10日
Published Date 1964/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203167
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保健婦1年生の私の受持地域は典型的な家内工業地帯である.狭い通りに面した棟わり長屋の1軒,あたり一面に砂糖とピーナツの混りあった甘い香りをただよわせながら父親と息子がビスケットを焼いている.「ごめんください」と声をかけると,奥から「やあどうぞ」と主人の声に,狭い仕事場の後を通りぬけきしむ階段を2階へ上がる.寝ているのは40代も半ばのこの家の主婦.「こんにちわ,その後いかがですか」「えー,ちょっとはよくなったようですが,ときどき熱が出るもんでね.」答えるすぐ後からごほんごほんと咳こむ.もう1年近くも三者併用化学療法を継続しながらまだ微熱が出るとは,と思いながら,「どうしたのかしら,また一度に洗濯でもやりすぎたのでは?」ときくと「それがねえー.」と口ごもる.
そこへ仕事の手を休めた主人が上がってきて「お忙しそうですね」と言うと「まったくどうしたものか菓子の注文があってあって,どうしょうもない状態で,家内が見かねて手伝うんです.
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