社会の窓
車をもった教師
野口 肇
pp.64
発行日 1964年4月10日
Published Date 1964/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203089
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「先生――おまえ,刃物をもっていないだろうナ」「生徒――先生,クルマをもってないでしょうネ」ある新聞の寸言から.ご存じのようにさいきん各地の学校で激突する,教師の自家用車を傷つけてなぐられた生徒,逆にガラスをわったとぬれぎぬを着た生徒が教師に乱暴をはたらいた,といった話題です.
さてネコもシャクシもマイカー時代.坊さんが自家用車で壇家をまわり,小金をためたお百姓が泥んこのタンボ道をのりまわす.なにしろ日本の自動車業界は需要を大はばに上まわり,それに貿易自由化で安い外車が日本市場にドッとのりこむ.これら乗用車の9割は月賦とあるから,高くもない給料をもらっている教師といえども,昔ながらの「聖職者」でない以上,マイカーを買うのは当然といえます.それにかれらは一般の中級サラリーマンのように駐車禁止で面くらうことがない.校庭は絶好の駐車場です.都心にかようサラリーマンだと,通勤時間の2時間前,車内でニギリ飯の朝食をとる,きめられた駐車場では月に1万円もかかる.だから通勤はもっぱら混雑する電車やバスで,日曜日になると家族をつれて郊外に自動車をとばすことになる.ある団地でしらべたら,マイカー所有者にかぎって洗たくざおの下着類がそまつだったそうです.
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