新しい年を迎えて 新年にあたつて
ケースワーカーから保健婦に望む
中島 さつき
1
1東京都衛生局普及課
pp.15-17
発行日 1960年1月10日
Published Date 1960/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202001
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2年前の夏の或る日,V. Dクリニックの保健婦から私のところに廻された29歳の青年があつた.ハンチングに洗いさらした茶色の作業衣をきた姿からは清潔な感じをうけた.住所は○○町ガード下,職はバタヤである.「どうしました?」ときくと「これから治療につづけて通わなければならないので,ここで相談するように言われました。」と答える.顔色は青白く無口な人で,医師のカルテには「後期潜伏梅毒,ワ氏反応(+++)とかかれてあつた.慢性の病気をもつた宿のない気の毒な男,彼が援助をえようと来た時にはすでに敗北感と劣等感を持つていたことであろう.ケースワーカーは道徳的批判やお説教を一切しないで彼をあるがままに受容し,彼の病気を徹底して治療させるにはどうしたらよいか,どうしたらこれから先患者が根気よく注射をうけにくるであろうか等と,患者の身になつて考えながら面接をすすめてゆくと,向うも素直にこちらの話にのつて来た.病気に対する科学的な説明と性病予防法で治療がうけられること,彼が午後から働きにゆくので(午後の方が屑が多い)その前に保健所へよつて治療をうけられれば彼の都合もよい等と話合つた.
彼の話によると父母共ハンゼン氏病で入院し,未感染児として施設にそだつた.母は生後まもなく死亡,5歳の時父も死亡した.
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