特集 精神衛生
ノイローゼ嫌い
河盛 好蔵
pp.53-54
発行日 1958年5月10日
Published Date 1958/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201638
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ノイローゼという言葉は一体いつ頃からこんなに流行するようになつたのだろうか.戦前には耳にしなかつた言葉であることだけは確実である.私が始めてこの言葉をきいたのは高見順君からだつた.たぶん昭和29年か30年頃ではなかつたかと思う.あるとき偶然高見君に会つたら,「この頃はノイローゼで困つているんだ」という話だつた.「へえ,それはどういうの?」ときくと,「僕の場合は,尖つたものを見ると駄目なんだ.気持が悪くなつて,それから」といろいろその症状を詳しく説明してくれた.そこで私は,ノイローゼとはつまり神経衰弱のことだなと理解した.今でもそう思つている.専門家から見れば,ノイローゼと,いわゆる神経衰弱とは別のものかもしれない.試みに,新村博士の「広辞苑」を開いてみると,「神経系統に器質的変化がなくて起る神経機能の疾患.全身神経症と局所神経症とあり,前者はヒステリー,神経衰弱があり,後者に書痙,神経性消化不良などがある」という説明が出ている.「広辞苑」は医学辞典でないから,この説明はどの程度まで信用してよいのか,素人の私には分らないが,ノイローゼを神経衰弱と大ざつぱに考えても,大したあやまりはないだろう.ともかく,そう考えて,この文章を書くことにしたい.
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