特集 精神衛生
ノイローゼの世紀
長谷川 泉
1
1医学書院編集部
pp.55-57
発行日 1958年5月10日
Published Date 1958/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201639
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20世紀はノイローゼの世紀だと言われる.私たちの周囲を見まわして見よう.どうもまさしくノイローゼばやりだと思わざるを得ないような現象が毎日起つている.何でもないのに先生を刺殺して,はては自分も自殺してしまう学生がいる.子供は一番健全でくつたくがないと思つていると,その子供が親にしかられたというので自殺するといつた具合である.日本は世界中でも有数の自殺国だというが,いくら感じ易い年ごろだといつても,近頃の青年たちの心理状態は,いささかおかしいのじやないかと思われるふしが多い.敗戦以来国全体が狂つているのかもしれない.いや,あるいはそんなことを考えるのも,すでにノイローゼなのかもしれない.
外国では精神神経科医は,臨床医のなかでは最も高度なところに位するという.そのことは収入にも影響しているようである.これは最近外国から帰国したドクターから聞いた話である,日本の現状では,早晩そのようなことになりかねない.いやその徴はすでにあらわれている.今日では結核の病床は,すでにあいて来て,精神病患者をいれる病床が不足して来ている.結核の病床が足らなくて,入院を何カ月も待ち,待つている間に死んでしまつたというような話は,もうそんなこともあつたかという旧聞に属する.地方の結核療養所のベツトはがらがらである.
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