講座
放射能についての知識
江藤 秀雄
1
1東大放射線科
pp.53-61
発行日 1957年4月10日
Published Date 1957/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201389
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
放射能とは
最近のように放射能といえば直ちに原子爆弾だの放射能灰だの放射能雨などおよそ人類の生存をおびやかすような物騒なもの許りが連想されることはまことに遺感なことである.すなわち放射能にはもつと別の平和的利用の面がある筈である.一体放射能とはなにか.1895年ドイツのレントゲンがエツクス線を発見したのがある刺戟となつて,今より丁度60年前,1896年フランスのベツクレルは偶然の機会にウラン(ウラニウム)を含む針物を黒紙で包んだ乾板上においたところ,それが感光している事実を発見した.すなわちウランからエツクス線のように眼にみえないが黒紙を通して乾板を感光させる能力を持つたある"線"が放出されていたのである.さらにこれがきつかけとなつて1898年にキユーリー夫妻は有名なラジウム発見の偉業をなしとげた.いまここに僅か数ミリグラムのラジウムを入れた試験管があるとしよう.これは化学的にはバリウムによく似た性質の白色の金属にすぎないけれども,これを黒い紙で包んだフイルムの上におけばウラン鉱の場合と同様感光することがわかるであろう.また逆に試験管を黒い紙で包み暗室に持ちこみシアン化白金バリウムとか硫化亜鉛などの化合物を塗つた所謂螢光板,すなわち今日X線で身体を透視する場合に用いられる螢光板のようなものを近づけてみればこれがポーツと明るく輝くのをみることが出来よう.
Copyright © 1957, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.