戦後20年記念「ナースの手記」佳作
放射能を浴びて
河野 美喜子
1
1国立大阪病院
pp.94-96
発行日 1966年6月1日
Published Date 1966/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912781
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
●君のため国のため……
私はこの20年間,広島原子爆弾の被害者として原子病より脱出しようと日夜精一杯の努力を続けてきた。思いは遙か20年経過した今日でも忘れようとして忘れえない。あの日のことを思うたびに,恐怖と悲惨な追憶の渦の中に巻かれる心の傷跡は,一生私の脳裏から永久に消え去ることはないだろう。
忘れようとして原爆に関することはいっさい敬遠してきた私は,原爆に対しての科学的な知識もまたその罹災状況を記述する文学的才能もないが,ただ私の体験とそれに対して感じたこと見たことをはじめて記録した。しかしその真相を如実に表現するには私の筆力では到底及ばないことを遺憾に思う。
Copyright © 1966, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.