特集 公害とその後
放射能による環境汚染
市川 龍資
1
Ryushi ICHIKAWA
1
1放射線医学総合研究所
pp.557-562
発行日 1987年8月15日
Published Date 1987/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207520
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■環境放射能の歴史
太古の昔から自然放射線や自然放射性物質が地球上に存在したことはよく知られているが,人工放射性物質が環境に存在するようになったのは比較的新しい時代のことである.
わが国では昭和20年8月の広島および長崎への原爆投下により,それらの地域に核分裂によって生成された人工放射性核種がばらまかれたはずである.これが国内での環境放射能汚染の最初ということができる.しかし当時は原爆による強大な破壊力と,熱および直接の強力な放射線照射による人間の被害がすさまじいものであったから,環境にばらまかれた放射性物質についての調査は望むべくもなかった.半減期が30年ほどもあるストロンチウム90(90Sr)やセシウム137(137Cs)は今でも残っているわけであるが,その後に米ソの核爆発実験がはげしく行われたので,それによる放射性降下物(フォールアウト)が広く世界全体に沈着し,広島や長崎の土壌中の90Srと137Csを分析定量しても,その中から昭和20年の原爆に由来するものを弁別することが出来ない.
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