講座
社会心理学の話(その2)—行動樣式
中野 卓
1
1教育大学
pp.64-68
発行日 1954年10月10日
Published Date 1954/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200829
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行動樣式,それは作られ,学ばれたものである前号では,人間の行動が「その本人によつて思われている主観的な意味」をになつている点で,先天的・自然的な行動とは区別される後天的な「社会的行動」であることを強調した.また,私たちを行動へとかりたてる欲求というものが,たんなる本能では割りきれない,多分に文化的・社会的な,従つて後天的な欲求であり,少くとも,先天的・本能的欲求といえども,このような後天的な欲求に,いわば,ないまぜられて現われてくるものであることを指摘した.
これらのことから,当然,いま述べたような多分に後天的な欲求を,主観的な意味あいで充足しようとして人間がとる行動の,その行動の仕方は,多分に後天的な,文化的・社会的なものでなければならない.人間は,さまざまな行動をとるとき,ある文化,いいかえればあ,る社会において,(ある民族の,ある時代において)標準となつているような特定の行動の仕方(例えば日本の近世社会では義理人情的行動樣式)がある.そして,このような行動樣式の組織は,全体としての文化の中でその重要な一部を形作るものである行動文化という一領域をなしている.もし,人間の行動が,全く先天的・本能的なものなら,民族や時代が異るごとにそれぞれに特徴的な行動文化があるわけはなく,人間の行動樣式はすべて人類全体に全く共通なはずである.
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