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腦髓の機能と構造の研究に携るものはそのエネルギー消費が他の身體器官に比べて可成特殊な樣式に從つているであろうことを豫見し想像する。すなわち腦髓は細胞學的にも脈管學的にも非常に特殊なものであり,その構造は感覺と運動という二つの對蹠的な生命表象の目的に從つて複雜ではあるが合理的な排列をとつている。しかもそれらの上に人間の精神作用という抽象的な機能が統合されているのである。他の器官が殆ど一元的な機能を持つのに比べてその複雜さは自から明らかである。しかも腦髓はあらゆる意味に於て身體のすべての植物的又動物的機能の作業水準を統制支配する働きを負わされている。從つて,腦に於ける極めて僅かの作用失調も末端奏効器官に到つては増幅擴大されることになる。之は人間の全身に亙る運動機構が僅か數cmの大腦運動領に縮寫投影されているととから容易にうなづかれることである。視丘に至つては此の狭小な領域に運動・感覺の機能が更に一層緊密に割當られていて唯吾々の現在の知識が充分その機構を明らかにしていないだけのことである。腦髓に對する複雜周到な保護裝置の一端を吾々は先づ腦に對する血液供給機構に於て見出す事ができる。腦の血液循環に就ては長い暗黒時代の後歐米の神經生理學者及び解剖學者の努力協調によつて極めて微細の點に至る迄明らかにされて來た。いまその格別に重要な機構の1・2を擧げて見ると腦外に存在する腦血流調整機構としては化學的及び壓受容器としての頸動脈竇,大動脈弓受容器,心臟受容系,血液の炭酸瓦斯或ひは酸素容量の變化に對する中樞性調節などがあり,又腦内機構としては交感及び副交感神經性調節及び炭酸瓦斯の局所的蓄積による腦の局所的血流増加などがある。これらの各々に就て觸れるのが本論文の目的ではないから一切は省略することにして,腦血管の解剖學的特性とそれが神經細胞の機能,及びその酸素消費と如何なる關聯にあるかをいさゝか述べて見よう。
腦血管は古來考へられた樣な終末血管ではなく非常に豊富な吻合をそなへている。すなわち大きな動脈としてはヴィリス環が一つの完全な吻合系をなし,腦全體としての血流の不均衡を綜合的に調整し,軟腦膜に於ては靜脈の間に,又中等大動脈間に充分な吻合がある。腦皮質の灰白に到つてはすでに相連絡する毛細管の間に完全な血管網が形造られてをり,もしも必要があれば赤血球は後頭葉から前頭葉迄遊走することさへも考えられる。
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