映画評
愛しのシバよ歸れ/蟹工船
H
pp.42-44
発行日 1953年12月10日
Published Date 1953/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200651
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
原名Come back,littleShebaの直譯の題名であるが,これは名譯で,この映画の雰囲気がそのままよく出ている.シバとは子供のない中年の夫婦が,無聊をなぐさめる爲に飼つていた可愛いい小犬の名である.その小犬は行方不明になつた.夫婦は,特に妻はいつまでもその小犬をなつかしみ悲しんでいる.
この映画は対比的な構成を持つている.一つは子供のない淋しい中年の夫婦いま一つはこの家に部屋借りする若い女学生とその戀人との甘美な戀愛生活とである.この女学主とその戀人との若々しい激しい青春の気息はこの映画の唯一の救いである.女学生には許婚があるが,友人の男学生と戀愛遊戯にふける.結局女学生は狂暴に迫る男学生を拒んで許婚と結婚する.中年の夫婦はこの戀愛遊戯に対して異つた反応を示す.妻は俗つぽいジヤズ趣味で,自分たちの戀愛結婚の過去の思い出を女学生の戀愛の中に夢幻的に追つている.2人の抱擁を鍵穴からのぞいたりする.妻の妊娠のため優等生の夫は医師の学業半ばで退学し生活の澱の中に沈んだのであるが,子供は死産し而もその後子供はなく,戀女房は自堕落で夫が朝食の準備をしてからしどけなく起きてくるようなしまつである.アル中になつたのも結婚生活に破れたためである.彼は自省によつて更生したが,妻とは矢張り性格的にも教養的にも違いがありすぎることが不幸の源である.
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.