教養講座 小説の話・18
プロレタリア・リアリズムと『蟹工船』
原 誠
pp.44-45
発行日 1958年3月15日
Published Date 1958/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910561
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「種蒔く人」にはじまつて「文芸戦線」にうけつがれていつたわが国のプロレタリア文学運動は,その後いくつかの集団や流派にわかれました。流派・集団ごとに雑誌もいろいろのものが出されています。が,資本主義の社会機構に反対し,プロレタリアートの解放をめざす,という命題についてはどれもこれもおなじ思想,おなじ旗印をかかげていたのです。「文芸戦線」以後の主なものは,青野季吉,中西伊之助,山田清三郎,小川未明らによる「日本プロレタリア芸術連盟」—略して「プロ芸」—および中野重治,鹿地亘,関鑑子,千田是也などによる「マルクス主義芸術研究会」—略して「マル芸」—それから「プロ芸」から分裂した「労農芸術家連盟」—略して「労芸」—さらにその「労芸」から分裂した「前衛芸術家同盟」—略して「前芸」—など。まだまだこのほかにも多数あつたのですから,まことに賑かなことでした。
この文学運動は常に政治と密接にむすびついていますから,文学的な面だけで分裂をおこしていたというような単純なものではなく,政治的な面で分裂をくりかえしていたとみられる点が多分にあるのです。プロレタリアート解放,反資本主義という命題はみな同じですが,その命題の進め方,それに対する方法論の考のちがいがこうしたいくつかの集団や流派をうんだのです。といつても結局はわが国のプロレタリア文学がひとつの大きな柱をうちたてるまでの,模索の期間がここにあつたと考えていいでしよう。
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