主張
長島愛生園を訪ねて
由起 しげ子
pp.9-12
発行日 1952年1月10日
Published Date 1952/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200210
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岡由縣に旅行する本來の目的は野谷村のマスコットオヴアレキサンドリヤについていろいろのことを知りたいためであつたが,出發に際して岡山縣にお馴染の深い石垣純二氏が長島の愛生園を訪れる樣にと云つて下さつた。私は喜んでそのお言葉にしたがうつもりであつたが,どんなにしてその島へ渡るものか,見當がつかないのを心配に思つていたが,さいわい,石垣先生が御同行下さることになつたので,その岡山を9里も離れた乗物の便利の悪い島に何の苦勞もなくわたることが出來た。11月5日,その日,私は他で時間をとつてしまつたので出發がおくれ,本土のはづれの虫明けという淋しい漁村についたのはもうすつかり夜になつた頃であつた。その漁村にゆきつく迄の道は丘陵を耕した畑や灌漑用の溝川や小さい村々の間を次第に沈黙多い方へと運ばれてゆく氣もちであつたが,虫明けの小さいはと場についた時は,ただ黒々とした水と,灯のない山々が見えるだけで心細いような氣もちになつた。私は,長島には立派な施設があつて美しい風景と光田園長をはじめ献身的な氣持で働いていられる職員の方々もいられて何も不當に心細がることはないしそれは却つて失禮なことだと思い,ことさらに日常の出來事のように思わうとするのだが,實は自動車でそこに來るまでに私の心は,いまから長島を訪れようとするものの心ではなく,私みつからライ病人であつて,家族に別れ,再び歸る希望もなくて島に收容される人の思いになつてみようとしていたのであつた。
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