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患者の訴を聽くのも一つの治療法
I. K.
pp.52
発行日 1951年7月10日
Published Date 1951/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200116
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- 文献概要
受診に來る患者さんの中にはいろいろと自分の病氣やそれに關係したことをくくど述べる方があります。そして忙しいと醫者や氣の短い醫者はそれを我慢して聽くことを中々苦痛として喜びません。保健婦さんでも巡回訪問の時などにいろいろ煩しいことを訴えられて困ることが必ずあると思います。しかしその時に醫者も保健婦も出來るだけ親切に又時間の許す限り患者又はその附添の家人の云うこともよく聽いて上げることは大切です。その訴を十分述べさせ又よく聽き取ることは患者に精神的の重荷或は病菌を輕くしてやる作用をします。徒然草にも『もの言はざれば腹ふくる』とさえ云つてる樣に他人に自分の云いたいことを話してそれを聞いてもらうだけでも,訴える人には氣が輕くなります。その上聞き手からその話の間に眞に同情の言葉や適當の示唆又は質問などを夾んで聽かれれば一層效果が上ります。精神分析治療法も確かにこの手段を一部利用しているのです。しかし,私たち醫者又は保健婦は衞生指導或は醫療と云う目的で患者の話なり訴えなりを聞いでいるのですから,平易に打ちとけた形式で話をするのは結構ですが,漫談や雜談でなく,聞き手にも或る心構えが必要でしよう。勿論先ず第一には患者に同情を以て聽くことです。次には患者は通常醫者或は保健婦が知りたいと思うことよりも他のことを長々と述べる傾向があります。しかしその場合にそれを遮らず,巧に知りたいと思う點を求めて質問することも必要です。
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