ベッドサイドの看護
野性児のように振る舞っていた子供が言葉を取り戻すまでの援助
吉良 栄子
1
,
小笠原 嘉祐
1
1国立療養所菊池病院重心病棟
pp.899-903
発行日 1982年8月1日
Published Date 1982/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661922841
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はじめに
私たちの‘動く重障児病棟’には,著しい行動障害があり,日常生活の身辺処理も十分に自立していない重度の精神遅滞児が入院しているが,その中に少数の小児自閉症,あるいは小児分裂病の子供が含まれている.これらの子供たちは,知的な障害は軽度であるが,その著しい情緒面,対人面の障害のために,集団生活ができないばかりか,日常の身辺動作にも介助を要し,自閉・退行状態を呈している.そのはなはだしい例では,言語的な接触も全くない荒廃状態に陥って入院してくる例も認められる.これらの中には,障害の原因となった器質的な異常などのほかに,生育過程での家族関係をはじめとした環境的因子の中に,障害をより顕現化させたものがあると考えられる症例も多い.
今回報告する事例は,生育歴において,特に乳幼児期の母子関係が,自閉・退行状態や,6年間にもわたって全くしゃべらない,いわゆる全緘黙状態を促進させる大きな要因になったと思われる一女児についてである.当病棟に入院し,言葉を取り戻し,ある程度の社会生活ができるようになるまでを,その療育経過もあわせて考察したい.
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