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Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)20121)は,今日のガイドライン作成プロセスのスタンダードであるGRADEシステムを採用した妥当性の高いガイドラインであり,米国,ヨーロッパ,オーストラリアなどの各専門家団体のみならず,日本集中治療医学会と日本救急医学会も公式に支持を表明している。一方,保険診療制度の違いや,主に欧米人を対象とした臨床試験の結果に基づいたエビデンスをもとに作成したガイドラインをそのまま,日本人の敗血症診療に適用してよいのかという疑問から「日本版敗血症診療ガイドライン」2)(以下,日本版ガイドライン)が日本集中治療医学会により作成され,やはり2012年末に公表された。ただし,日本版ガイドラインでは,GRADEシステムは採用されておらず,エビデンスの質の評価や推奨度の決定において今日の診療ガイドラインに期待されている水準の透明性や客観性が担保されたとは言い難い。
このように,ほぼ同時期に,日本の実施臨床家に影響力をもつ敗血症マネジメントに関する2つのガイドラインが公表された。しかし,困ったことに,日本独自の極めて特殊な支持療法に関しては,SSCG2012では言及すらされていない。また,国際的にも見解の定まらない支持療法に関して両者の推奨に大きな相違がみられる。これらのことが,本邦の実地臨床家を悩ませている。例えば,免疫グロブリン製剤は日本版ガイドラインでは弱い推奨がなされているが,SSCG2012では投与すべきでないとまったく逆の立場をとっている。また,本邦で開発され諸外国での使用が不可能か極めて限定的なエンドトキシン吸着療法(PMX-DHP),好中球エラスターゼ阻害薬(シベレスタット),トロンボモジュリン,さらにその他の播種性血管内凝固症候群disseminated intravascular coagulation(DIC)に対する種々の薬物療法に関して,日本版ガイドラインではおおむね好意的にとらえられているが,SSCG2012ではアンチトロンビンを除いて言及すらしていない。メディエータ除去を目的としたいわゆるnon-renal indicationによる持続腎代替療法に対する立場も両ガイドラインで異なっている。
この2つのガイドラインの狭間で,我々実施臨床家はどのように振る舞うべきか。本稿では,両ガイドラインで見解の相違がみられる部分やSSCG2012では触れられていない部分である急性血液浄化療法,PMX-DHP,免疫グロブリン製剤,好中球エラスターゼ阻害薬について,これまでの臨床研究を客観的に検証し,筆者らの個人的な立場を表明する。なお,DICに対する薬物療法に関しては「敗血症に関する基礎医学の最新知見:敗血症と凝固線溶系異常:抗凝固療法の是非」(493ページ)で詳述される。
Summary
●敗血症における腎代替療法の開始基準は明らかではなく,尿量を基準に開始する妥当性も現時点では不明である。
●サイトカインなどのメディエータ除去を目的とした血液浄化量の増量や特殊な浄化膜の選択を推奨するには科学的根拠が不十分である。
●PMX-DHPが生命予後や血行動態を改善するという根拠は乏しい。近い将来,生命予後をアウトカムとした第Ⅲ相RCTの結果が公表される予定なので,その結果を注視したい。
●IVIGが敗血症の生命予後を改善したとする質の高いエビデンスはない。古い研究も多く,その有効性の検証には,今日の標準的マネジメントのもとに行われる大規模RCTが必須である。
●シベレスタットは大規模RCT(STRIVE試験)で,その有害性が示唆された。国内で行われた臨床研究における有効性の根拠も乏しく,高額であることも加味すると,その使用を支持するのは困難である。
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