特集 患者の死をみまもって
家族不在の死を看とって
伊藤 正子
1
1自治医科大学付属病院血液科病棟
pp.243-248
発行日 1980年3月1日
Published Date 1980/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918898
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緒言
臨床の場において,死を受け止められない患者が看護婦たちに怒りをぶつけ始める時,私はその患者と時間の許す限り面接するように努めている.その患者の苦悩を聞いている時,患者の顔が般若の面のように見えてくる.その心の奥には,自分自身を抑制できない悲しみが現れていることを知る.ぶつけたい気持ちに耐えることで,自分自身が強くなることもあるだろうが…….実にそうした患者の姿を追っていくと,最後には人間の持つ弱さにぶつかる気がする.‘だれの前でも見せたことのない涙を,あなたの前で思いきり流したい’と言った患者もいた.
患者が病気を受容できない段階において,私たちは的確な解答が出せないままに何年も悩み続けてきた.人間はだれでも自分を愛し,自分が取り返しのつかなくなることを恐れる.だが死は刻々と迫ってくる.しかし現実に起こり得る死を感じられるのは,他人の死だけなのであろう.
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