特集 難病へのアプローチ
地域の保健・医療チームによる難病患者・家族への在宅ケア—末期の筋ジストロフィー症患者S. I. 君をめぐって
関野 栄子
1
,
赤塚 弘子
2
,
榊原 和子
3
,
二羽 昌子
3
,
中谷 幸子
3
1東京都神経科学総合研究所社会学研究室
2日野保健所
3日野市立病院
pp.33-42
発行日 1980年1月1日
Published Date 1980/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918855
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はじめに
筋ジストロフィー症の末期は,全身の筋萎縮が進み,特に呼吸筋の萎縮による換気障害または心筋萎縮による心不全で死亡する.S. I. 君は,1979年6月18日に,この筋萎縮による心不全と換気障害が原因で,23歳7か月の生涯を閉じた.5歳の時,東大病院で筋ジストロフィー症と診断されてから,14歳の時‘この病気は現代医学では不治であり,20歳ごろまでしか生きられない’ことを知った.以来,1日1日を充実させることに生きる目標を置き,クリスチャンとしての信条を守り,患者中心の生活に照準を合わせた家族の献身にも支えられて,生への努力をしてきた.
23年7か月の生涯のうち,入院療養をしたのは,10歳の時,補装具をつけるために6か月間徳島大学付属病院に入院したことと,20歳を過ぎてから,東京都立府中病院神経内科に,風邪や心筋障害の精査のため計4回,延べ57日間入院しただけであった.患者も家族も,入院は最低限度にし,限られた人生をできるだけ自宅で,家族や,友人たちの中で過ごすことを希望していた.そして,緊急時には,在宅のまま医療サービスが受けられるように,地域の家庭医や訪問援助の充足を強く希望していた.
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