特集 ‘老い’の心
老いの心のゆくえ知れず……
松本 こずえ
pp.1142-1146
発行日 1976年11月1日
Published Date 1976/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918013
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持てる者の悩み
友人のKさんに久し振りに会った.彼女はその時ひどくはずんでいた.娘夫婦が長い間の関西支店勤務から東京本社へ転勤してくるので一緒に住むことにした,という.いくら気丈な彼女でも,75歳にもなっての独り暮らしは身にこたえていたに違いない.本当にうれしそうに,孫ももう来年は大学だし娘たちもこの先東京から離れることはないだろう──と語った.
世田谷の住宅街に広い家屋敷を持った彼女は,2階を人に貸していたが,部屋代などどうでもよかったので入室者にはいろいろと注文をつけ,いつも安心して留守も頼めるような人を入れていた.その2階全部と階下の応接間とを娘たちに住まわせて,自分は6畳の茶の間と8畳の居間に住む,広い昔風の勝手をキッチンと食堂にする予定だが,これは娘が来てから好きなようにさせることにして,今2階を修理しているところだ──そんな説明をしながらもひどく楽しそうであった.
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