社会の窓
日本語のゆくえ
野口 肇
pp.57
発行日 1965年6月10日
Published Date 1965/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203415
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実例からはじめます.先晩,家族そろったところでためしにたずねてみた.「アンネ」とはなにか,と.すると中学3年の男の子がニヤニヤしながら「女の人のあれでしょ」と答えた.そこで,このアンネとはなにかときいたところ,だれも知らない.いうまでもない,ナチのユダヤ人狩りをのがれてかくれていた一家の娘アンネが,その暗い歳月をつづってベストセラーになった記録「アンネの日記」からとったもの.いまでは月経の代名詞としてほとんど完全な日本語にまでなっており,製造元の婦人社長は実業界の名士です.その他,外来語を日本語化したものたとえばハッシド・ライスがハヤシライス,デパートメント・ストアがデパート,さらには日本語を外来語ふうに権威(?)づけた頭痛薬のケロリン,蚊取線香のカトール,などなど.小川芳男「外来語パトロール」という本あたり,思わず吹きだすことばが行列しています.それも英米語だけでなく,仏,ポルトガル,スペイン,ソ連,中国語と,およそ貪らんな言語消化力です.
ところでご承知のように,敗戦直後,思いきった国語国字改革が断行され,1,850字の当用漢字をはじめ現代かなづかい,新送りがな制が実施され,みられるとおり教科書,新聞,公用文書を筆頭に,ほぼこれでつらぬいています.
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