天地人
わが身をツネって人の痛さを知れ
光
pp.1891
発行日 1982年10月10日
Published Date 1982/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402217984
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健康で体力のあることは医師として絶対に必要な資質の一つである.やや極端な言い方をすれば,学問的に優秀でも虚弱で体力のない医師より,学問的には十人並みでもスタミナとガッツのある医師の方が実地診療上はるかに頼り甲斐があることすらある.これは急患や重患を扱う医師—とくに外科系医師の場合そうで,数日間不眠不休で診療にあたっても過労によって判断力が低下したり,感情的に不安定になったり,疲労困憊して最後の最後まで受持患者の疾患と闘い抜く闘志と精神力を失うようであってはならないのである.
しかし,その反面,「生来健康で病気知らず」の医師は患者にとって必ずしも有難い存在とは言いかねる点もある.それは,ちょうど順境に育った苦労知らずの秀才人間が,社会の底辺にある不幸な人々の気持をよく理解できないのと同じである.健康に恵まれた者には病苦に打ちひしがれた人々の気持は「理屈」でわかっても「実感」として体得できないのである—自分が彼らと同じ境遇におちいるまでは…….
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