セミナールーム・法医学
生と死の間(その2)
江下 博彦
pp.68-69
発行日 1969年6月1日
Published Date 1969/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661917628
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まず私が身近に体験し,見聞したいくつかの事例をあげてみましょう。
例1—昭和29年,私が関係していた徳島の某病院でのことです。脳腫瘍で6か月入院していた16才の男の子の呼吸が完全に停止したのを確認したのは.夕方の5時30分でした。瞳孔は散大固定し対光反射はもちろんすべての反射は消失し,肛門も開大しています。「ご臨終です」と言いかけて最後にもう一度聴診器を心臓部にあてると,微かに心音が残っています。所詮駄目だとわかっていても,家族に対『するエチケットからいちおう私と主治医(白川誉繁博士現在徳島県麻植郡開業)は用手人工呼吸(ホワード法)を開始しました。ところがどうでしょう。人工呼吸が軌道にのると心音はりズミカルに明確に打ち始め,撓骨動脈でもはっきり脈搏を触れます。しかし一般状態は完全に死体同様何の反応もありません。妙な表現ですが,「心臓だけが動いている死体」という言葉が番ぴったりする感じです。
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