マイ・オピニオン
先を見越すことの英知
星 美代子
1
1神奈川県立成人病センター
pp.923
発行日 1974年9月1日
Published Date 1974/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661917089
- 有料閲覧
- 文献概要
唐突な話であるが,先ごろ,小野田少尉が生還した時,文学の世界の人々は,今や‘内向の世代’だと言ったそうである.さすが敏感なものだと思う.その内容を述べるのは今日のテーマではないので要約するが,物質繁栄の中に自己の欲望を追求してみても,真の生きがいとはなり得ず,己が内なる精神の内部にテーマを当てる……要するに文学界はいつも時代感覚を先取りする……うらやましい.私ども看護界もこのへんで,社会に対する次元の高い憤りを持ち,参加する時代ではないだろうか.‘看護婦さん’といえば,人手不足,夜勤はつらくて大変でしょう……の印象から一歩も出ないとすれば余りにも悲しい.
先ごろ国立がんセンター看護婦の共同研究が世に出たことは嬉しい.死生観に関する問題は安楽死のテーマと共に,古今東西,哲学者,宗教家,文学者が全霊をこめて取り組んだことであるが看護婦の参加は初めてである.まさにコロンブスの卵だ.これを契機に社会に向かってもっと発言する熱意をもちたい.病院内では,なくてはならぬ重要な役割を演じながら,プロジェクトチームの中で,また社会の中で,影が薄くなるのは,どの欠陥から来るものだろうか.
Copyright © 1974, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.