特集 看護婦としての私を支えるもの—看護の先輩から新卒ナースの方へ
私をとりまく人びとからの学び
池野 栄子
1
1諏訪赤十字看護専門学校
pp.467-471
発行日 1978年5月1日
Published Date 1978/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918385
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昨年の5月,その朝元気に出掛けて行った夫が,会社で吐血し,救急車でいま病院に運ばれていったと,午前11時ごろ連絡を受けた.私は,一瞬,まさか……でもいたずらなはずはない,とにかくこれは急がねばならないと,あわただしいような,それでいて落ち着いたような変な気持ちで電話口に立っていた.電話が終わった途端,何をどのようにしたらよいのか,妙に力のなくなった膝の関節を意識しながら,ウロウロと無駄に歩き回っていた.一刻も早く夫の顔を見なければという思いが先行して,頭の中では何も考えていないような,考えなければいけないのに考えられないような,とてもおかしな感じだったように思う.
駆けつけた病室で意外にしっかりした夫の顔を見た時,私は初めて自分の胸がドキドキしているのを感じた.‘ああよかった.助かった’と直感的に感じた.しかし,それからが大変だった.正に私の10数年間の看護婦としての経験は,その後の20時間近い時間の中ですべて,泡沫(うたかた)のごとく消えたも同然だった.
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