東西南北
過失
山本 直純
,
富沢 宏哉
,
中野 恭彦
,
菊地 洋子
1
1フジテレビ
pp.13
発行日 1968年11月1日
Published Date 1968/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661914181
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楽隊(オーケストラ)達のつかう言葉のなかに,足を出すというのがある。演奏の最中,間違って突拍子もない時に,自分だけ飛び出すことをいうのだが,演奏家として,こんな恰好わるいことはない。一方落っこちるという言葉がある。これは,自分の演奏すべきパートをうっかりやり過ごしてしまうことをいうのである。チャイコフスキーの悲愴交響曲のクライマックスで,たった一度だけ,ドラが鳴る有名な箇所があるのだが,演奏旅行に行って,この一箇所を落っこちてしまって,何もせずに帰って来た楽隊の話は余りにも有名である。大きなドラの前で譜面と睨めっこ,そろそろ叩くつもりでバチをもって立ち上ったところ,あっという間に演奏は次の部分へ行ってしまっていたので,その哀れな打楽器奏者は,大きなドラをそっとさすっておもむろに腰をおろしたのだそうである。それでも給料と汽車賃は出たそうだから昔の楽隊はなかなか良き商売だったようである。
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