EDITORIAL
医療過誤における医師の過失責任
唄 孝一
1
1都立大法律学
pp.827
発行日 1968年7月10日
Published Date 1968/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402202283
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戦後の民事判決においては,戦前と異なり,損害をうけた患者が医師を訴求することもそう珍しくなくなってきた.この傾向は,原告に対して好意的な態度を示す判決が増えたことと相対応しているといえよう.この点で,梅毒に感染している職業的供血者の血を輸血した医師につき,その問診不足の故に過失ありとした「輸血梅毒事件」(昭和36年)は,医師にかなり重い責任を課したものとして特に有名である.その際,最高裁判所が宣した「いやしくも人の生命および健康を管理する業務の性質に照し,危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのはやむを得ないところ」という言葉は,今後ますます大きく機能することが予想される.
この場合,被告の過失を立証するために,その診療行為を,それを構成する諸行為に分析して,いかなる作為,不作為が注意義務違反であるかを特定するという方法がとられている.ところが,患者が医師の特定の行為または不作為を過失ありと証明することは,往々にしてきわめて困難である.そこで,結果から「一応の推定」によって過失を認定するという方法がとられることがある.
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