看護婦さんへの手紙
病人に同情してあげて下さい
武者小路 実篤
pp.13
発行日 1965年12月1日
Published Date 1965/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913797
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僕は幸い看護婦さんのお世話にならずに今日まで(満80年と3ヵ月)生きて来ました。だから看護婦さんの生活の事も,看護婦さんのお仕事に就ても,想像以上の事は知りません。しかし僕も小説家として食って来たので,想像力は普通の人よりあるつもりで,看護婦さんの仕事も,僕は想像しているわけで,実際の生活とは随分ちがっているかと思います。想像はいい方を考えると天使までゆき,悪い方を考えると,病人相手の死を日常の事のように考えて働いている人が想像されます。しかしごく普通に考えると,看護婦さんは,病人にとって親切な同情を持って働いていて下さる尊敬すべき職業をされる方に思われます。しかし現実的に考えると,随分いやな事もある。又随分我儘な身勝手な病人もあり,同情したくも同情の出来ない病人もあると思います。殊に大勢の病人をあつかう場合,自分の事切り考えない病人の世話をやくのは大変で,僕は看護婦さんの御仕事に対しては,いくら考えても,一寸人間業では完全に行なうわけにゆかぬのが事実と思います。看護婦さんになり手が段々なくなる話を聞き,困ったものと思いますが,無理もないとも思います。そう言ういろいろの噂さや,想像を商売にしている小説家の一人である僕の想像では,現在看護婦と言う仕事をしていられるあなた達に先ず尊敬をしたいと思います。
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