精神身体医学講座・【最終回】
ヒューマニズムとしての心身医学
池見 酉次郎
1
1九大医学部心療内科
pp.42-44
発行日 1965年6月1日
Published Date 1965/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913615
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幼稚園ではおそすぎる
人間と動物とを区別する決定的な事実の一つは,「人は人によらざれば,人になりえない」という点である。人間が,ホモ・サピエンス(智恵ある人)となるためには,周囲との人間的な交流が不可欠のものである。
このさい,もっとも問題となるのは,周囲の人間との交互作用を通じて,人間としてのあり方がきざみこまれて行く,大脳の新皮質(知性の座)の機能的な生長,ということである。人間の性格形成の基盤となる,このような大脳の基礎的工事の大部分が,人生のごく早期において行なわれるという事実が,近頃,脳生理学者によって確認されており,三歳児の問題がやかましくとり上げられ,「幼稚園からではおそすぎる」と警告されるゆえんもここにある。そして天才的な精神医学者であるシグモンド,フロイドらが幼時体験を重視し,それまでは宿命視されがちであった性格の謎をとく鍵を,幼時の精神生活史の分析にもとめた卓見の正しさが,大脳生理学的に見直されつつある現代である。
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