連載 社会思想史の旅・2
ルネッサンスとヒューマニズム
田村 秀夫
1
1中央大学経済学部
pp.37-41
発行日 1968年12月1日
Published Date 1968/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906103
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自然と人間の発見
中世の封建社会から近代市民社会の形成への第一歩は,14世紀ないし16世紀の問にイタリアを中心として展開されたルネッサンスによってはじめられる。ルネッサンス文化について,有名な定式化を試みた19世紀ドイツの歴史家ブルクハルトの表現をかりれば,「中世においては,意識の二つの側面一つまり,世界と人間の内面とに対する二つの側面は,いわば一つの共通の迷霧のなかに夢みながら,あるいはなかば目覚めなかば眠りながら包まれていた。だがようやく,まずこの迷霧が風のまにまに消えうすれ」,「自然と人間の発見」が行われた。中世のキリスト教の支配下に罪深いものとして否定されてきた人間とその自然が,いまや新しい光を浴びて,率直に肯定され,讃美されるようになる。ルネサンス時代の絵画や彫刻を見ればすぐ判るように,人間の豊かな肉体がまばゆいばかりの色調で,あるいは逞しい迫力で謳歌されている。
さらに学問や思想全般にわたっても,人間的なものが肯定され,中世の神中心主義に対して人間中心主義への傾向が目立っている。そこでこうした傾向をルネッサンスのヒューマニズム(人間主義)とふつう呼んでいるが,当時のヒューマニストの一人ピコ・デラ・ミランドラ(1463年-94年)は,『人間の尊厳について』において,アダムを創造したときの神の言葉をつぎのように述べている。
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