文学
非現実的な現実—安部公房の文学
平山 城児
1
1立教大学文学部
pp.106-107
発行日 1965年5月1日
Published Date 1965/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913603
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状況説明不十分な「砂の女」
映画「砂の女」がコンクールで多くの賞を獲得した。その映画はまだ見ていないのでなんとも言えないがさぞ風変わりな作品だったろうと思う。その原作である,安部公房の小説の方は読んだ。不思議な作品である。一体に,この作家は,奇抜な着想に基づいた作品を書く。だから,小説「砂の女」だけが風変わりなのではなくて,こうした特徴は,処女作から一貫したものなのである。
しかし,率直に言って,「砂の女」は,それほどおもしろいとは言えない。安部公房のような作家の作品に現実的なものさしを当てて,それをどうこう批判するのは的はずれと言えないまでも,適切な評価の仕方とは言えないかも知れないが,それでも,納得の行かないものは,やはりおかしいのである。この作品では,ある男が,昆虫採集の途中で砂丘の中のくぼみに落ち,ついにそこから脱出できなくなり,さまざまの試みも無駄になるという部分が大きなスペースを占めているわけだが,その砂のくぼみから,男が脱出できないという状況設定が,どうも説明不十分のような気がする。それはそれで約束事だからとしても,その砂丘に住んでいる人たちが一体,なぜそのように不毛の土地に執着するのかがまるで理解が行かない。もう一歩ゆずって,そのような生活が現実にあったとしても,その生活の必然性が作品の上で納得が行かなければ,その作品は成功したとは言えない。
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