クリニック・アイ
「貸せごせ、参らせ」
木島 昻
1
1小児科
pp.96
発行日 1967年8月1日
Published Date 1967/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913258
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カセゴセ,マイラセ?? 変な言葉,しかし日本の古い言葉ということはわかります。実はこの言葉は現在でも山陰の一地方では日常使われていて,正しくは「貸せこせ,参らせ,そのまま後生楽」というのです。ゴショウラクという言葉は元来は仏教用語で,後生すなわち死んでからの世界,あの世は極楽である。死んでからは(そのあとは)ラクチンであるという意味です。山陰から北陸路にかけては昔から仏教のなかでも真宗に信仰があつく,他力本願を説くお坊様が“ナムアミダブツの念仏さえ唱えれば善男善女,誰でも後生楽ですぞよ”とこの言葉を親しく用いたので今日でも残っているのです。さて,この里びた諺の大意ですが,それは──貸してもらえば(借りたら)最後こちらのもの,後はいい気なもんさ──といったほどに訳されます。世間には気軽に何でも鍬や鋤や小銭やタバコなどを他人から借りて,返済の催促がないのをいいことにそのまま猫糞をきめこむ人間も多いので,それについての里諺なのです。ですからその地方では今日でも,物を借りた人はその場で,貸し主に「ありがとう,貸せごせ参らせにはしないから大丈夫」とつかうわけです。
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