連載 ルポ・天主堂のそびえる島“黒島”・その2
取材とためらい
木島 昻
1
1小児科
pp.66-68
発行日 1968年2月1日
Published Date 1968/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913877
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島の娘とべんけいガニ
本土で買いこんだ食料品をいっぱい詰めこんだブリキ缶や瓶ものの木箱。荷物はすべて食糧品だ。船からおろすおばさんたち,ひき受ける島の人たち,健康的で荒々しい声のやりとりが岩塊の埠頭に展開される。黒い鞄をぶら下げた僕はなんとなく異質で,この風景から除け者にされている。ぴょんと船から跳んでおりた靴底の,硬い岩肌の感触にうっすらと足のうらが痛い。
旅館は1,2軒ある……と聞いていたので,まあ皆が歩く方向へ行ってみようと運まかせの気分になる。と,その時,耳の近くで,「診療所のお客さんとじゃろ,東京のお客さんとじゃろ」と太い女の声がした。「ああ,えええ,僕……」と言ったか言わないうちに,日光と潮に焼けてまっ黒な頑丈な娘さんが,僕の鞄をとって,有無を言わさず,ずいずいと僕を先導する。あとでこの娘さんから聞いてわかったことだが,この取材旅行を応援してくださった長崎県医師会から島の診療所へ連絡があってのことらしい。見知らぬ土地,しかも離島で,この無口でかざり気のない娘さんの案内はうれしくも力強い。
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