クリニック・アイ
一人三役の歯車
木島 昻
1
1小児科
pp.57
発行日 1967年10月1日
Published Date 1967/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913311
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標榜は内科・午前中宅診・午後往診。土曜日の午後と日祭日は休診。──ここまでは別に何の変哲もないが,一歩その医院の玄関を入ると,もう一風変わった雰囲気に当てられる。受付の窓口に出た顔が上品で温容な50年輩の男性であるからである。紅い実を結ぶ万年青の数鉢,院長と奥さんの読み終えたと思われるまだ清潔な月遅れのそれらしい教養の雑誌数冊など,庭の棕櫚の木の葉影を映した日光の射す静かな待合室で待つ。やがて,こんどは先刻の温顔紳士と思われる人の声,「どうぞお入りください,○○さん」とあって診察室に入る。小じんまりした診察室は兼書斎といった感じ,いや洗面専用のカランとは別に,“検査用”と記された,やや柿色に染まった白いタイルの流しの上には,採尿コップや試験管,赤沈棒のセットなど立てかけてあって,ラボラトリーの感じも強い。
思ったとおり,くだんの顔と声の持主が院長で,実にゆっくり当方患者の話を聞き,質問をし,診察をしてくださる。ちょっとしたカゼだからと思って,どうせ注射1本と投薬で数分ですむと気軽に訪ねた初診の患者など,20分以上もかけた丁寧な診察と,院長自らの投薬で,帰りの窓口で支払う保険の診療費の安さに痛く恐縮して,3度目に見る院長に深く礼を告げて帰って行く。
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