社会病理と精神衛生・4
自殺
高木 隆郎
1
1京都大学医学部付属病院精神科
pp.81-83
発行日 1963年12月1日
Published Date 1963/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912097
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1.自殺率の変動
自殺もまた政治や社会の変容,文化的要因によって変動しやすい現象である。第1図をみると説明する必要のないほど明瞭にその変動推移がわかる。すなわち,自殺死亡率(人口10万対)は,戦時中下降し,経済的恐慌によって上昇する。日本ではとくに第2次大戦後の跳ねかえり(リバウンディング)が著明で,敗戦の生活苦による一時的な社会混乱のみによって説明できないものがある。日本は戦前から,ドイツ,スイスなどについで自殺率の高い国であったけれども,1954年(昭29)以後,一躍世界第1となり,多くの国の自殺率低下傾向と逆行している。日本につぐ自殺国はデンマーク,スイス,西ドイツ,フィンランド,スエーデンなどであり,またもっと自殺の少ないのはアイルランド,アメリカの黒人,チリー,スコットランドなどである。
2.日本の自殺の特徴
日本における自殺率を高からしめているのは第1に青年層の自殺の多いことである。結核対策がいちおう軌道にのり,抗生剤などで急性伝染病,炎症性疾患による死因が減少しつつある今日,20代の青年層の死因のトップは,《不慮の事故》と《自殺》で争われているという喜んでよいのか悲しむべきかわからない現状にある(第1表)。
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